蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
鷹が峯に遊ひて樵夫の家にやどる
寒山に木を伐て乾鮭を烹る
ふぐ汁の亭主と見へて上座哉
鰒くへと乳母は育てぬうらみかな
妹が子は鰒くふ程になりにけり
鰒汁の君よ我等よ子期伯牙
河豚汁や五侯の家の戻足
鰒汁やおのれ等が夜は朧なる
鰒と汁鼎に伽羅を焚夜哉
雪の河豚鮟鱇の上にたゝんとす
鰒の贊先生文を揮はれたり
その昔鎌倉の海に鰒やなき
彌陀佛や鯨よる浦に立給ひ
突とめた鯨や眠る峯の月
既に得し鯨は迯て月ひとつ
山颪一二の[mori ]の幟かな
手取にやせんと乘り出す鯨舟
佐保川に鴨の毛捨るゆうべ哉
鴨遠く鍬そゝぐ水のうねり哉
をし鳥や鼬の覗く池古し
鴛や國師の沓も錦革
鴛や花の君子はかれてのち
鴛や池におとなき樫の雨
水鳥や提灯遠き西の京
水鳥を吹あつめたり山おろし
水鳥や朝めし早き小家がち
かぜ一陣水鳥白く見ゆるかな
水鳥やてうちんひとつ城を出る
水鳥や夕日江に入る垣のひま
水鳥や巨椋の舟に木綿うり
うかれ越せ鎌倉山を夕千鳥
渡し呼ぶ女の聲や小夜ちどり
湯あがりの舳先にたつや村千鳥
むら雨に音行違ふ千鳥かな
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||