University of Virginia Library

おもふこと有て

雪を踏て熊野詣のめのと哉

風呂入に谷へ下るや雪の笠

玉あられこけるや富士の天邊より

木がらしや小石のこける板びさし

こがらしや野河の石をふみわたる

こがらしや廣野にどうと吹起る

木枯しや覗て迯る淵の色

凩や何をたよりの猿おかせ

木がらしや碑をよむ僧一人

木がらしや釘の頭を戸に怒る

こがらしや炭賣ひとりわたし舟

初霜やわづらふ鶴を遠く見る

松明ふりて舟橋わたる夜の霜

我骨のふとんにさはる霜夜哉

野の馬の韮をはみ折る霜の朝

衞士の火もしら%\霜の夜明かな

氷踏で夙に驗者の木履かな

めぐり來る雨に音なし冬の山

冬川や佛の花の流れ來る

冬川や孤村の犬の獺を追ふ

冬川や誰が引捨し赤蕪

畠にもならで悲しきかれ野哉

山をこす人にわかれて枯野かな

石に詩を題して過る枯野哉

てら/\と石に日の照枯野かな

眞直に道あらはれて枯野かな

三日月も罠にかゝりて枯野哉

油灯の人にしたしき十夜かな