蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
おもふこと有て
雪を踏て熊野詣のめのと哉
風呂入に谷へ下るや雪の笠
玉あられこけるや富士の天邊より
木がらしや小石のこける板びさし
こがらしや野河の石をふみわたる
こがらしや廣野にどうと吹起る
木枯しや覗て迯る淵の色
凩や何をたよりの猿おかせ
木がらしや碑をよむ僧一人
木がらしや釘の頭を戸に怒る
こがらしや炭賣ひとりわたし舟
初霜やわづらふ鶴を遠く見る
松明ふりて舟橋わたる夜の霜
我骨のふとんにさはる霜夜哉
野の馬の韮をはみ折る霜の朝
衞士の火もしら%\霜の夜明かな
氷踏で夙に驗者の木履かな
めぐり來る雨に音なし冬の山
冬川や佛の花の流れ來る
冬川や孤村の犬の獺を追ふ
冬川や誰が引捨し赤蕪
畠にもならで悲しきかれ野哉
山をこす人にわかれて枯野かな
石に詩を題して過る枯野哉
てら/\と石に日の照枯野かな
眞直に道あらはれて枯野かな
三日月も罠にかゝりて枯野哉
油灯の人にしたしき十夜かな
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||