University of Virginia Library

芭蕉忌

時雨おとなくて苔にむかしをしのぶ哉

朔日のまことがましきしぐれかな

蓑蟲のふらと世にふる時雨哉

目前を昔に見する時雨哉

鷺ぬれて鶴に日のさすしぐれ哉

海棠の花は咲ずや夕時雨

夕時雨閾に蓑の雫かな

しぐるゝや長田が館の風呂時分

蓮枯て池あさましき時雨哉

半江の斜日片雲の時雨かな

物負て堅田へ歸るしぐれ哉

時雨るや山かいけちて日の暮る

夕しぐれ車大工も來ぬ日哉

手にとらじとても時雨の古草鞋

下戸ならぬこそ宵/\のしぐれ哉

子を遣ふ狸もあらん小夜しぐれ

[sakabaya ]軒にとしふるしぐれ哉

窓の人のむかしがほなる時雨哉

木兎の頬に日のさす時雨哉

老が戀わすれんとすればしぐれかな

初雪や上京は人のよかりけり

大雪と成けり關のとざし時

焚火して鬼こもるらし夜の雪

いさり火の燒のこしけむ巖の雪

山里や雪にかしこき臼の音

念比な飛脚過行深雪かな

雨の時貧しき蓑の雪に富リ

雪折も聞えてくらき夜なる哉

雪國や粮たのもしき小家がち

雪の旦母屋のけぶりのめでたさよ

住吉の雪にぬかづく遊女哉

邯鄲の市に鰒見る雪の朝

樂書の壁をあはれむ今朝の雪

雪拂ふ八幡殿の内參