蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
太祇が一周忌に
魂かへれ初裏の月のあるじなら
魂祭王孫いまだ歸り來ず
徹書記のゆかりの宿や魂祭
――――に消殘りたる切籠哉
高燈籠總檢校の母の宿
銀閣に浪花の人や大文字
細腰の法師すゞろに踊かな
錦木の門をめぐりてをどり哉
あけかゝかる躍も秋のあはれ哉
攝待へよらで過行狂女哉
つと入や納戸の暖簾ゆかしさよ
二三軒つと入しゆく旅の人
故郷の座頭に逢ぬすまふ取
組あふて物打かたる地とりかな
よき角力出て來ぬ老の恨哉
夜角力の草にすだくや裸蟲
訪ひよりし角力うれしき端居哉
角力取つげの小櫛をかりの宿
花火見えて湊がましき家百戸
畠主のかゝし見舞て戻りけり
木曾どのゝ田に依然たるかゝしかな
人に似よと老の作れるかゝし哉
花鳥の彩色のこす案山子哉
笠とれて面目もなき案山子哉
家ありや煙のつとふ鳴子繩
ちかづきの鳴子ならして通りけり
あなくるし水つきんとす引板の音
ゆく秋の所/\やくだり簗
しか/\と主も訪來ずくだり簗
獺の月に啼音やくづれやな
稻かれば小草に秋の日のあたる
したゝかに稻になひゆく法師哉
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||