蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
百貫の坊は賣盡すともこよひの月ながめざらんやは
名月やあるじをとへば芋掘に
五六升芋煮る坊の月夜哉
三井寺や月の詩つくる踏落し
鬼老て河原の院の月に泣ク
月見ぶねきせるを落す淺瀬哉
櫻なきもろこしかけてけふの月
盗人の首領哥よむけふの月
いさよひや鯨來初し熊野うら
鰯煮る宿にとまりつ後の月
後の月賢き人をとふ夜哉
後の月鴫たつあとの水の中
三井寺に緞子の夜着や後の月
殿原のいづち急ぞ草のつゆ
しら露の身や葛の葉の裏借家
白露や家こぼちたる萱のうへ
鍋釜もゆかしき宿やけさの露
旅人の火を打こぼす秋の露
人をとる淵はかしこ歟霧の中
朝霧や畫に書く夢の人通り
おもひ出て酢作る僧よ秋の風
秋風に散や卒都婆の鉋屑
唐黍のおどろきやすし秋の風
岡の家の海より明て野分哉
野分やんで鼠のわたるながれかな
鴻の巣の網代にかゝる野分かな
船頭の棹とられたる野分かな
曉の家根に矢のたつのわき哉
關の火をともせば滅る野分かな
いな妻や佐渡なつかしき舟便り
稻妻やはし居うれしき旅舎り
きく川に公家衆泊けり天の河
秋の空昨日や霍を放ちたる
帛を裂琵琶の流や秋の聲
野路の秋我後ロより人や來る
松明消て海すこし見ゆる花野哉
廣道へ出て日の高き花野かな
初潮や旭の中に伊豆相摸
初しほや枕にちかき濱屋敷
二またに細るあはれや秋の水
落し水柳に遠くなりにけり
たなばしはゆがみなりなりおとし水
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||