University of Virginia Library

筏士

春風のさす手ひく手や浮人形

春雨やゆるい下駄借す奈良の宿

春雨にぬれつゝ屋根の手毬かな

春雨や珠數落したる潦

春雨や同車の君がさゝめこと

はるさめの中を流るゝ大河哉

粟島へはだし參りや春の雨

春雨に下駄買ふ初瀬の法師哉

春雨や蛙の腹は未だぬれず

春の雨穴一のあなにたまりけり

笘船を刷ひぬはるの雨

背のひくき馬に乘る日の霞哉

山寺や撞そこなひの鐘霞む

陽炎やひそみもあえず土龍

雪解や妹が巨燵に足袋かたし

雪どけやけふもよしのゝ片便

もの焚た乞食の火より燒野哉

春の水山なき國を流れけり

小舟にて僧都送るや春の水

湖や堅田わたりを春の水

里人よ八橋つくれ春の水

春の水すみれつばなをぬらしゆく

晝船に狂女のせたり春の水

烏帽子着て誰やらわたる春の水

水ぬるむ頃や女のわたし守

枕する春の流れやみだれ髪

帆虱のふどし流さん春の海

苗代にうれしき鮒の行衞哉

苗代や立ゆがめても伊勢の神

櫻ちる苗代水や星月夜

御忌の鐘波なき京のうねり哉

永き日をいはでくるゝや壬生念佛

やぶ入や浪花を出て長柄川

やぶ入の宿は狂女の隣かな

やぶ入や鳩にめでつゝ男山

養父入を守れ子安の地藏尊