蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
筏士
春風のさす手ひく手や浮人形
春雨やゆるい下駄借す奈良の宿
春雨にぬれつゝ屋根の手毬かな
春雨や珠數落したる潦
春雨や同車の君がさゝめこと
はるさめの中を流るゝ大河哉
粟島へはだし參りや春の雨
春雨に下駄買ふ初瀬の法師哉
春雨や蛙の腹は未だぬれず
春の雨穴一のあなにたまりけり
笘船を刷ひぬはるの雨
背のひくき馬に乘る日の霞哉
山寺や撞そこなひの鐘霞む
陽炎やひそみもあえず土龍
雪解や妹が巨燵に足袋かたし
雪どけやけふもよしのゝ片便
もの焚た乞食の火より燒野哉
春の水山なき國を流れけり
小舟にて僧都送るや春の水
湖や堅田わたりを春の水
里人よ八橋つくれ春の水
春の水すみれつばなをぬらしゆく
晝船に狂女のせたり春の水
烏帽子着て誰やらわたる春の水
水ぬるむ頃や女のわたし守
枕する春の流れやみだれ髪
帆虱のふどし流さん春の海
苗代にうれしき鮒の行衞哉
苗代や立ゆがめても伊勢の神
櫻ちる苗代水や星月夜
御忌の鐘波なき京のうねり哉
永き日をいはでくるゝや壬生念佛
やぶ入や浪花を出て長柄川
やぶ入の宿は狂女の隣かな
やぶ入や鳩にめでつゝ男山
養父入を守れ子安の地藏尊
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||