University of Virginia Library

初春

しら梅に明る夜ばかりとなりにけり

具足師が古きやどりや梅の花

御勝手に春正が妻か梅の月

一羽來て寢る鳥は何梅の月

さむしろを畠に敷て梅見哉

かはほりのふためき飛や梅の月

野路の梅白くも赤くもあらぬ哉

紅梅や入日の襲ふ松かしは

梅が香の立のぼりてや月の暈

松下の障子に梅の日影哉

梅が香に夕暮早き麓哉

水に散て花なくなりぬ岸の梅

傀儡の赤き頭巾やうめの花

梅がゝやひそかにおもき裘

むくつけき僕倶したる梅見哉

莚帆に香をうつし飛岸のうめ

こちの梅も隣のむめも咲にけり

一軒の茶見世の柳老にけり

君ゆくや柳みどりに道長し

不二おろし十三州のやなぎ哉

門前の嫗が柳絲かけぬ

風吹かぬ夜はものすごき柳哉

やなぎから日のくれかゝる野道哉

三尺の鯉くゞりけり柳影

雨の日や都に遠きもゝのやど

交へ折て白桃くるゝうれしさよ

桃の花ちるや任口去てのち

海棠や白粉に紅をあやまてる

椿落て昨日の雨をこぼしけり