蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
老鶯兒
春もやゝあなうぐひすよむかし聲
うぐひすの鳴やうどのゝ河柳
鶯に終日遠し畑の人
低き木に黄鳥啼や晝下り
鶯や堤を下る竹の中
けさ來つる鶯と見しになかで去る
留主守の鶯遠く聞日哉
篁にうぐひす啼やわすれ時
鶯や野中の墓の竹百竿
鶯や梅ふみこぼすのり盥
啼あへでうぐひす飛や山おろし
うぐひすのわするゝばかり引音哉
鶯の淺井をのぞく日影かな
わりなしやつばめ巣つくる塔の前
乙鳥や去年も來しと語るかも
細き身を子により添る燕哉
ふためいて金の間を出る燕哉
雉打て歸る家路の日は高し
きじ啼や御里御坊の苣畠
河内女の宿にゐぬ日や雉の聲
泥障しけ爰ぞひばりの聞所
舞雲雀鎧の袖をかざしかな
わか鮎や谷の小笹も一葉行
風なくて雨ふれとよぶ蛙哉
およぐ時よるべなきさまの蛙かな
彳めば遠くも聞ゆかはづかな
揚士の小雨つれなき田にしかな
拾ひ殘す田にしに月の夕かな
むき蜆石山の櫻ちりにけり
山蜂や木丸殿の雨の中
土舟や蜂うち拂ふみなれ棹
島原の草履にちかきこてふかな
伊勢武者のしころにとまるこ蝶哉
釣鐘にとまりて眠る胡てふ哉
神棚の灯は怠じ蠶時
今年より蠶はじめぬ小百姓
鳴瀧の植木屋が梅咲にけり
舟よせて鹽魚買ふや岸の梅
みのむしの古巣に添ふて梅二輪
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||