University of Virginia Library

老鶯兒

春もやゝあなうぐひすよむかし聲

うぐひすの鳴やうどのゝ河柳

鶯に終日遠し畑の人

低き木に黄鳥啼や晝下り

鶯や堤を下る竹の中

けさ來つる鶯と見しになかで去る

留主守の鶯遠く聞日哉

篁にうぐひす啼やわすれ時

鶯や野中の墓の竹百竿

鶯や梅ふみこぼすのり盥

啼あへでうぐひす飛や山おろし

うぐひすのわするゝばかり引音哉

鶯の淺井をのぞく日影かな

わりなしやつばめ巣つくる塔の前

乙鳥や去年も來しと語るかも

細き身を子により添る燕哉

ふためいて金の間を出る燕哉

雉打て歸る家路の日は高し

きじ啼や御里御坊の苣畠

河内女の宿にゐぬ日や雉の聲

泥障しけ爰ぞひばりの聞所

舞雲雀鎧の袖をかざしかな

わか鮎や谷の小笹も一葉行

風なくて雨ふれとよぶ蛙哉

およぐ時よるべなきさまの蛙かな

彳めば遠くも聞ゆかはづかな

揚士の小雨つれなき田にしかな

拾ひ殘す田にしに月の夕かな

むき蜆石山の櫻ちりにけり

山蜂や木丸殿の雨の中

土舟や蜂うち拂ふみなれ棹

島原の草履にちかきこてふかな

伊勢武者のしころにとまるこ蝶哉

釣鐘にとまりて眠る胡てふ哉

神棚の灯は怠じ蠶時

今年より蠶はじめぬ小百姓

鳴瀧の植木屋が梅咲にけり

舟よせて鹽魚買ふや岸の梅

みのむしの古巣に添ふて梅二輪