University of Virginia Library

夜半翁常にいへらく、發句集はなくてもありなんかし、世に名だゝる人の其句集出て、日來の聲譽減ずるもの多し、況汎々の輩をやと。しかるに門派に一人の書肆ありて、あながちに句集を梓にちりばめむことをもとむ、翁もとよりゆるさず。翁滅後にいたりて、二三子が書とめおけるをあつめて、是を前後の二編に撰分て、小祥・大祥二忌の追福のためとすと也。其志又淺からずといふべし。されば句集を世に弘うすることは、あなかしこ翁の本意にはあらず、全く是をもて此翁を議ずべからずといふ事を田福しるす。

天明四甲辰之冬十二月
京寺町通五條上ル町
書肆 汲古堂