University of Virginia Library

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うつくしきもの

ふりに書きたる兒の顏。雀の子のねずなきするにをどりくる。又紅粉などつけて居ゑたれば、親雀の蟲など持て來てくくむるも、いとらうたし。三つばかりなる兒の、急ぎて這ひくる道に、いとちひさき塵などのありけるを、目敏に見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、おとななどに見せたる、いとうつくし。あまにそぎたる兒の目に、髮のおほひたるを掻きは遣らで、うち傾きて物など見る、いとうつくし。たすきがけにゆひたる腰のかみの、白うをかしげなるも、見るにうつくし。おほきにはあらぬ殿上わらはの、さうぞきたてられて歩くもうつくし。をかしげなる兒の、あからさまに抱きてうつくしむ程に、かいつきて寢入りたるもらうたし。雛の調度。蓮のうき葉のいとちひさきを、池よりとりあげて見る。葵のちひさきもいとうつくし。何も/\ちひさき物はいとうつくし。いみじう肥えたる兒の二つばかりなるが、白ううつくしきが、二藍のうすものなど、衣ながくてたすきあげたるが、這ひ出でくるもいとうつくし。八つ九つ十ばかりなるをのこの、聲をさなげにて文よみたる、いとうつくし。鷄の雛の、足だかに、白うをかしげに、衣みじかなるさまして、ひよ/\とかしがましく鳴きて、人の後に立ちてありくも、また親のもとにつれだちありく、見るもうつくし。かりの子。舎利の壺。瞿麥の花。