枕草紙 (Makura no soshi) | ||
[125、126]
むとくなるもの
潮干の潟なる大なる船。髮みじかき人の、かづらとりおろして髮けづるほど。大なる木の風に吹きたふされて、根をささげてよこたはれふせる。相撲のまけているうしろ手。えせものの從者かんがふる。翁の髻はなちたる。人の妻なンどの、すずろなる物怨じして隱れたるを、かならず尋ねさわがんものをと思ひたるに、さしも思ひたらず、ねたげにもてなしたるに、さてもえ旅だち居たらねば、心と出できたる。狛犬しく舞ふものの、おもしろがりはやり出でて踊る足音。
修法は、佛眼眞言など讀みたてまつりたる、なまめかしうたふとし。
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