University of Virginia Library

悲求古歌

草枕旅のいほりに
うちこやし年の經ぬれば
うづら鳴く古りにし里に
からころも立ちかへり來て
あからひく晝はしみらに
水鳥の息つきくらし
ぬば玉の夜はすがらに
人のぬるうまいもいねず
たらちねの母がましなば
かひなでてたらはさましを
若草の妻がありせば
かいもちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
つれもなくよしもなきやに
うつせみをよせてしあれば
ひと日こそたへもしつらめ
ふた日こそ忍びもすらめ
長き日をいかにわたらん
かくすれば人にいとはれ
かくすればおさにさやらえ
かにかくにせんすべをなみ
こもり居て音のみし泣かゆ
朝夕ごとに
あらたまの長き月日をいかにしてわが世わらん麻で小ぶすま