University of Virginia Library

初時雨

神無月しぐれの雨の
をとつ日もきのふも今日も
降るなべに山の紅葉は
玉ぼこの道もなきまで
散りしきぬ夕さり來れば
さすかけてつま木たきつつ
山たつの向ひの丘に
さを鹿の妻よび立てて
鳴く聲を聞けば昔の
思ひ出てうき世は夢と
知りながらうきにたへねば
さむしろにころもかたしき
うちぬれば板じきの間より
あしびきの山下風の
いと寒く吹き來るなべに
あり衣を有りのこと%\
引きかづきこひまろびつつ
ぬば玉の長きこの夜を
いもねかねつも