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万葉集 (Manyoshu) | ||
相聞
3455
[題詞]相聞
[原文]古非思家婆 伎麻世和我勢古 可伎都楊疑 宇礼都美可良思 和礼多知麻多牟
[訓読]恋しけば来ませ我が背子垣つ柳末摘み枯らし我れ立ち待たむ
[仮名],こひしけば,きませわがせこ,かきつやぎ,うれつみからし,われたちまたむ
3456
[題詞]
[原文]宇都世美能 夜蘇許登乃敝波 思氣久等母 安良蘇比可祢弖 安乎許登奈須那
[訓読]うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな
[仮名],うつせみの,やそことのへは,しげくとも,あらそひかねて,あをことなすな
3457
[題詞]
[原文]宇知日佐須 美夜能和我世波 夜麻<登>女乃 比射麻久其登尓 安乎和須良須奈
[訓読]うちひさす宮の我が背は大和女の膝まくごとに我を忘らすな
[仮名],うちひさす,みやのわがせは,やまとめの,ひざまくごとに,あをわすらすな
3458
[題詞]
[原文]奈勢能古夜 等里乃乎加恥志 奈可太乎礼 安乎祢思奈久与 伊久豆君麻弖尓
[訓読]汝背の子や等里の岡道しなかだ折れ我を音し泣くよ息づくまでに
[仮名],なせのこや,とりのをかちし,なかだをれ,あをねしなくよ,いくづくまでに
3459
[題詞]
[原文]伊祢都氣波 可加流安我<手>乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武
[訓読]稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ
[仮名],いねつけば,かかるあがてを,こよひもか,とののわくごが,とりてなげかむ
3460
[題詞]
[原文]多礼曽許能 屋能戸於曽夫流 尓布奈未尓 和<我>世乎夜里弖 伊波布許能戸乎
[訓読]誰れぞこの屋の戸押そぶる新嘗に我が背を遣りて斎ふこの戸を
[仮名],たれぞこの,やのとおそぶる,にふなみに,わがせをやりて,いはふこのとを
3461
[題詞]
[原文]安是登伊敝可 佐宿尓安波奈久尓 真日久礼弖 与比奈波許奈尓 安家奴思太久流
[訓読]あぜと言へかさ寝に逢はなくにま日暮れて宵なは来なに明けぬしだ来る
[仮名],あぜといへか,さねにあはなくに,まひくれて,よひなはこなに,あけぬしだくる
3462
[題詞]
[原文]安志比奇乃 夜末佐波妣登乃 比登佐波尓 麻奈登伊布兒我 安夜尓可奈思佐
[訓読]あしひきの山沢人の人さはにまなと言ふ子があやに愛しさ
[仮名],あしひきの,やまさはびとの,ひとさはに,まなといふこが,あやにかなしさ
3463
[題詞]
[原文]麻等保久能 野尓毛安波奈牟 己許呂奈久 佐刀乃美奈可尓 安敝流世奈可母
[訓読]ま遠くの野にも逢はなむ心なく里のみ中に逢へる背なかも
[仮名],まとほくの,のにもあはなむ,こころなく,さとのみなかに,あへるせなかも
3464
[題詞]
[原文]比登其登乃 之氣吉尓余里弖 麻乎其母能 於夜自麻久良波 和波麻可自夜毛
[訓読]人言の繁きによりてまを薦の同じ枕は我はまかじやも
[仮名],ひとごとの,しげきによりて,まをごもの,おやじまくらは,わはまかじやも
3465
[題詞]
[原文]巨麻尓思吉 比毛登伎佐氣弖 奴流我倍尓 安杼世呂登可母 安夜尓可奈之伎
[訓読]高麗錦紐解き放けて寝るが上にあどせろとかもあやに愛しき
[仮名],こまにしき,ひもときさけて,ぬるがへに,あどせろとかも,あやにかなしき
3466
[題詞]
[原文]麻可奈思美 奴礼婆許登尓豆 佐祢奈敝波 己許呂乃緒呂尓 能里弖可奈思母
[訓読]ま愛しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗りて愛しも
[仮名],まかなしみ,ぬればことにづ,さねなへば,こころのをろに,のりてかなしも
3467
[題詞]
[原文]於久夜麻能 真木乃伊多度乎 等杼登之弖 和<我>比良可武尓 伊利伎弖奈左祢
[訓読]奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝さね
[仮名],おくやまの,まきのいたとを,とどとして,わがひらかむに,いりきてなさね
3468
[題詞]
[原文]夜麻杼里乃 乎呂能<波>都乎尓 可賀美可家 刀奈布倍美許曽 奈尓与曽利鶏米
[訓読]山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ
[仮名],やまとりの,をろのはつをに,かがみかけ,となふべみこそ,なによそりけめ
3469
[題詞]
[原文]由布氣尓毛 許余比登乃良路 和賀西奈波 阿是曽母許与比 与斯呂伎麻左奴
[訓読]夕占にも今夜と告らろ我が背なはあぜぞも今夜寄しろ来まさぬ
[仮名],ゆふけにも,こよひとのらろ,わがせなは,あぜぞもこよひ,よしろきまさぬ
3470
[題詞]
[原文]安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加<母> 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓
[柿本朝臣人麻呂歌集出也]
[訓読]相見ては千年やいぬるいなをかも我れやしか思ふ君待ちがてに [柿本朝臣人麻
呂歌集出也]
3471
[題詞]
[原文]思麻良久波 祢都追母安良牟乎 伊米能未尓 母登奈見要都追 安乎祢思奈久流
[訓読]しまらくは寝つつもあらむを夢のみにもとな見えつつ我を音し泣くる
[仮名],しまらくは,ねつつもあらむを,いめのみに,もとなみえつつ,あをねしなくる
3472
[題詞]
[原文]比登豆麻等 安是可曽乎伊波牟 志可良<婆>加 刀奈里乃伎奴乎 可里弖伎奈波毛
[訓読]人妻とあぜかそを言はむしからばか隣の衣を借りて着なはも
[仮名],ひとづまと,あぜかそをいはむ,しからばか,となりのきぬを,かりてきなはも
3473
[題詞]
[原文]左努夜麻尓 宇都也乎能登乃 等抱可騰母 祢毛等可兒呂賀 於<母>尓美要都留
[訓読]左努山に打つや斧音の遠かども寝もとか子ろが面に見えつる
[仮名],さのやまに,うつやをのとの,とほかども,ねもとかころが,おもにみえつる
3474
[題詞]
[原文]宇恵太氣能 毛登左倍登与美 伊R弖伊奈婆 伊豆思牟伎弖可 伊毛我奈氣可牟
[訓読]植ゑ竹の本さへ響み出でて去なばいづし向きてか妹が嘆かむ
[仮名],うゑだけの,もとさへとよみ,いでていなば,いづしむきてか,いもがなげかむ
3475
[題詞]
[原文]古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母
[訓読]恋ひつつも居らむとすれど遊布麻山隠れし君を思ひかねつも
[仮名],こひつつも,をらむとすれど,ゆふまやま,かくれしきみを,おもひかねつも
3476
[題詞]
[原文]宇倍兒奈波 和奴尓故布奈毛 多刀都久能 努賀奈敝由家婆 故布思可流奈母
[訓読]うべ子なは我ぬに恋ふなも立と月のぬがなへ行けば恋しかるなも
[仮名],うべこなは,わぬにこふなも,たとつくの,ぬがなへゆけば,こふしかるなも
3476S
[題詞]或本歌末句曰
[原文]奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波
[訓読]ぬがなへ行けど我ぬ行がのへば
[仮名],ぬがなへゆけど,わぬゆがのへば
3477
[題詞]
[原文]安都麻道乃 手兒乃欲婢佐可 古要弖伊奈婆 安礼波古非牟奈 能知波安比奴登母
[訓読]東路の手児の呼坂越えて去なば我れは恋ひむな後は逢ひぬとも
[仮名],あづまぢの,てごのよびさか,こえていなば,あれはこひむな,のちはあひぬとも
3478
[題詞]
[原文]等保斯等布 故奈乃思良祢尓 阿抱思太毛 安波乃敝思太毛 奈尓己曽与佐礼
[訓読]遠しとふ故奈の白嶺に逢ほしだも逢はのへしだも汝にこそ寄され
[仮名],とほしとふ,こなのしらねに,あほしだも,あはのへしだも,なにこそよされ
3479
[題詞]
[原文]安可見夜麻 久左祢可利曽氣 安波須賀倍 安良蘇布伊毛之 安夜尓可奈之毛
[訓読]安可見山草根刈り除け逢はすがへ争ふ妹しあやに愛しも
[仮名],あかみやま,くさねかりそけ,あはすがへ,あらそふいもし,あやにかなしも
3480
[題詞]
[原文]於保伎美乃 美己等可思古美 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 欲太知伎努可母
[訓読]大君の命畏み愛し妹が手枕離れ夜立ち来のかも
[仮名],おほきみの,みことかしこみ,かなしいもが,たまくらはなれ,よだちきのかも
3481
[題詞]
[原文]安利伎奴乃 佐恵々々之豆美 伊敝能伊母尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比具流之母
[訓読]あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも
[仮名],ありきぬの,さゑさゑしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひぐるしも
3482
[題詞]
[原文]可良許呂毛 須蘇乃宇知可倍 安波祢杼毛 家思吉己許呂乎 安我毛波奈久尓
[訓読]韓衣裾のうち交へ逢はねども異しき心を我が思はなくに
[仮名],からころも,すそのうちかへ,あはねども,けしきこころを,あがもはなくに
3482S
[題詞]或本歌曰
[原文]可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母
[訓読]韓衣裾のうち交ひ逢はなへば寝なへのからに言痛かりつも
[仮名]からころも,すそのうちかひ,あはなへば,ねなへのからに,ことたかりつも
3483
[題詞]
[原文]比流等家波 等<家>奈敝比毛乃 和賀西奈尓 阿比与流等可毛 欲流等家也須家
[訓読]昼解けば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ
[仮名],ひるとけば,とけなへひもの,わがせなに,あひよるとかも,よるとけやすけ
3484
[題詞]
[原文]安左乎良乎 遠家尓布須左尓 宇麻受登毛 安須伎西佐米也 伊射西乎騰許尓
[訓読]麻苧らを麻笥にふすさに績まずとも明日着せさめやいざせ小床に
[仮名],あさをらを,をけにふすさに,うまずとも,あすきせさめや,いざせをどこに
3485
[題詞]
[原文]都流伎多知 身尓素布伊母乎 等里見我祢 哭乎曽奈伎都流 手兒尓安良奈久尓
[訓読]剣大刀身に添ふ妹を取り見がね音をぞ泣きつる手児にあらなくに
[仮名],つるぎたち,みにそふいもを,とりみがね,ねをぞなきつる,てごにあらなくに
3486
[題詞]
[原文]可奈思伊毛乎 由豆加奈倍麻伎 母許呂乎乃 許登等思伊波婆 伊夜可多麻斯尓
[訓読]愛し妹を弓束並べ巻きもころ男のこととし言はばいや勝たましに
[仮名],かなしいもを,ゆづかなべまき,もころをの,こととしいはば,いやかたましに
3487
[題詞]
[原文]安豆左由美 須恵尓多麻末吉 可久須酒曽 宿莫奈那里尓思 於久乎可奴加奴
[訓読]梓弓末に玉巻きかくすすぞ寝なななりにし奥をかぬかぬ
[仮名],あづさゆみ,すゑにたままき,かくすすぞ,ねなななりにし,おくをかぬかぬ
3488
[題詞]
[原文]於布之毛等 許乃母登夜麻乃 麻之波尓毛 能良奴伊毛我名 可多尓伊弖牟可母
[訓読]生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも
[仮名],おふしもと,このもとやまの,ましばにも,のらぬいもがな,かたにいでむかも
3489
[題詞]
[原文]安豆左由美 欲良能夜麻邊能 之牙可久尓 伊毛呂乎多弖天 左祢度波良布母
[訓読]梓弓欲良の山辺の茂かくに妹ろを立ててさ寝処払ふも
[仮名],あづさゆみ,よらのやまへの,しげかくに,いもろをたてて,さねどはらふも
3490
[題詞]
[原文]安都左由美 須恵波余里祢牟 麻左可許曽 比等目乎於保美 奈乎波思尓於家礼
[柿本朝臣人麻呂歌集出也]
[訓読]梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ [柿本朝臣人麻呂歌
集出也]
3491
[題詞]
[原文]楊奈疑許曽 伎礼波伴要須礼 余能比等乃 古非尓思奈武乎 伊可尓世余等曽
[訓読]柳こそ伐れば生えすれ世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ
[仮名],やなぎこそ,きればはえすれ,よのひとの,こひにしなむを,いかにせよとぞ
3492
[題詞]
[原文]乎夜麻田乃 伊氣能都追美尓 左須楊奈疑 奈里毛奈良受毛 奈等布多里波母
[訓読]小山田の池の堤にさす柳成りも成らずも汝と二人はも
[仮名],をやまだの,いけのつつみに,さすやなぎ,なりもならずも,なとふたりはも
3493
[題詞]
[原文]於曽波夜母 奈乎許曽麻多賣 牟可都乎能 四比乃故夜提能 安比波多<我>波自
[訓読]遅速も汝をこそ待ため向つ峰の椎の小やで枝の逢ひは違はじ
[仮名],おそはやも,なをこそまため,むかつをの,しひのこやでの,あひはたがはじ
3493S
[題詞]或本歌曰
[原文]於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母
[訓読]遅速も君をし待たむ向つ峰の椎のさ枝の時は過ぐとも
[仮名],おそはやも,きみをしまたむ,むかつをの,しひのさえだの,ときはすぐとも
3494
[題詞]
[原文]兒毛知夜麻 和可加敝流弖能 毛美都麻弖 宿毛等和波毛布 汝波安杼可毛布
[訓読]子持山若かへるでのもみつまで寝もと我は思ふ汝はあどか思ふ
[仮名],こもちやま,わかかへるでの,もみつまで,ねもとわはもふ,なはあどかもふ
3495
[題詞]
[原文]伊波保呂乃 蘇比能和可麻都 可藝里登也 伎美我伎麻左奴 宇良毛等奈久文
[訓読]巌ろの沿ひの若松限りとや君が来まさぬうらもとなくも
[仮名],いはほろの,そひのわかまつ,かぎりとや,きみがきまさぬ,うらもとなくも
3496
[題詞]
[原文]多知婆奈乃 古婆乃波奈里我 於毛布奈牟 己許呂宇都久思 伊弖安礼波伊可奈
[訓読]橘の古婆の放髪が思ふなむ心うつくしいで我れは行かな
[仮名],たちばなの,こばのはなりが,おもふなむ,こころうつくし,いであれはいかな
3497
[題詞]
[原文]可波加美能 祢自路多可我夜 安也尓阿夜尓 左宿佐寐弖許曽 己登尓弖尓思可
[訓読]川上の根白高萱あやにあやにさ寝さ寝てこそ言に出にしか
[仮名],かはかみの,ねじろたかがや,あやにあやに,さねさねてこそ,ことにでにしか
3498
[題詞]
[原文]宇奈波良乃 根夜波良古須氣 安麻多安礼婆 伎美波和須良酒 和礼和須流礼夜
[訓読]海原の根柔ら小菅あまたあれば君は忘らす我れ忘るれや
[仮名],うなはらの,ねやはらこすげ,あまたあれば,きみはわすらす,われわするれや
3499
[題詞]
[原文]乎可尓与西 和我可流加夜能 佐祢加夜能 麻許等奈其夜波 祢呂等敝奈香母
[訓読]岡に寄せ我が刈る萱のさね萱のまことなごやは寝ろとへなかも
[仮名],をかによせ,わがかるかやの,さねかやの,まことなごやは,ねろとへなかも
3500
[題詞]
[原文]牟良佐伎波 根乎可母乎布流 比等乃兒能 宇良我奈之家乎 祢乎遠敝奈久尓
[訓読]紫草は根をかも終ふる人の子のうら愛しけを寝を終へなくに
[仮名],むらさきは,ねをかもをふる,ひとのこの,うらがなしけを,ねををへなくに
3501
[題詞]
[原文]安波乎呂能 乎呂田尓於波流 多波美豆良 比可婆奴流奴留 安乎許等奈多延
[訓読]安波峰ろの峰ろ田に生はるたはみづら引かばぬるぬる我を言な絶え
[仮名],あはをろの,をろたにおはる,たはみづら,ひかばぬるぬる,あをことなたえ
3502
[題詞]
[原文]和我目豆麻 比等波左久礼杼 安佐我保能 等思佐倍己其登 和波佐可流我倍
[訓読]我が目妻人は放くれど朝顔のとしさへこごと我は離るがへ
[仮名],わがめづま,ひとはさくれど,あさがほの,としさへこごと,わはさかるがへ
3503
[題詞]
[原文]安齊可我多 志保悲乃由多尓 於毛敝良婆 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖米也母
[訓読]安齊可潟潮干のゆたに思へらばうけらが花の色に出めやも
[仮名],あせかがた,しほひのゆたに,おもへらば,うけらがはなの,いろにでめやも
3504
[題詞]
[原文]波流敝左久 布治能宇良葉乃 宇良夜須尓 左奴流夜曽奈伎 兒呂乎之毛倍婆
[訓読]春へ咲く藤の末葉のうら安にさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば
[仮名],はるへさく,ふぢのうらばの,うらやすに,さぬるよぞなき,ころをしもへば
3505
[題詞]
[原文]宇知比佐都 美夜能瀬河泊能 可保婆奈能 孤悲天香眠良武 <伎>曽母許余比毛
[訓読]うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も
[仮名],うちひさつ,みやのせがはの,かほばなの,こひてかぬらむ,きぞもこよひも
3506
[題詞]
[原文]尓比牟路能 許騰伎尓伊多礼婆 波太須酒伎 穂尓弖之伎美我 見延奴己能許呂
[訓読]新室のこどきに至ればはだすすき穂に出し君が見えぬこのころ
[仮名],にひむろの,こどきにいたれば,はだすすき,ほにでしきみが,みえぬこのころ
3507
[題詞]
[原文]多尓世婆美 弥<年>尓波比多流 多麻可豆良 多延武能己許呂 和我母波奈久尓
[訓読]谷狭み峰に延ひたる玉葛絶えむの心我が思はなくに
[仮名],たにせばみ,みねにはひたる,たまかづら,たえむのこころ,わがもはなくに
3508
[題詞]
[原文]芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母
[訓読]芝付の御宇良崎なるねつこ草相見ずあらば我れ恋ひめやも
[仮名],しばつきの,みうらさきなる,ねつこぐさ,あひみずあらば,あれこひめやも
3509
[題詞]
[原文]多久夫須麻 之良夜麻可是能 宿奈敝杼母 古呂賀於曽伎能 安路許曽要志母
[訓読]栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも
[仮名],たくぶすま,しらやまかぜの,ねなへども,ころがおそきの,あろこそえしも
3510
[題詞]
[原文]美蘇良由久 <君>母尓毛我母奈 家布由伎弖 伊母尓許等<杼>比 安須可敝里許武
[訓読]み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む
[仮名],みそらゆく,くもにもがもな,けふゆきて,いもにことどひ,あすかへりこむ
3511
[題詞]
[原文]安乎祢呂尓 多奈婢久君母能 伊佐欲比尓 物能乎曽於毛布 等思乃許能己呂
[訓読]青嶺ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこのころ
[仮名],あをねろに,たなびくくもの,いさよひに,ものをぞおもふ,としのこのころ
3512
[題詞]
[原文]比登祢呂尓 伊波流毛能可良 安乎祢呂尓 伊佐欲布久母能 余曽里都麻波母
[訓読]一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも
[仮名],ひとねろに,いはるものから,あをねろに,いさよふくもの,よそりづまはも
3513
[題詞]
[原文]由布佐礼婆 美夜麻乎左良奴 尓努具母能 安是可多要牟等 伊比之兒呂<波>母
[訓読]夕さればみ山を去らぬ布雲のあぜか絶えむと言ひし子ろはも
[仮名],ゆふされば,みやまをさらぬ,にのぐもの,あぜかたえむと,いひしころはも
3514
[題詞]
[原文]多可伎祢尓 久毛能都久能須 和礼左倍尓 伎美尓都吉奈那 多可祢等毛比弖
[訓読]高き嶺に雲のつくのす我れさへに君につきなな高嶺と思ひて
[仮名],たかきねに,くものつくのす,われさへに,きみにつきなな,たかねともひて
3515
[題詞]
[原文]阿我於毛乃 和須礼牟之太波 久尓波布利 祢尓多都久毛乎 見都追之努波西
[訓読]我が面の忘れむしだは国はふり嶺に立つ雲を見つつ偲はせ
[仮名],あがおもの,わすれむしだは,くにはふり,ねにたつくもを,みつつしのはせ
3516
[題詞]
[原文]對馬能祢波 之多具毛安良南敷 可牟能祢尓 多奈婢久君毛乎 見都追思努<波>毛
[訓読]対馬の嶺は下雲あらなふ可牟の嶺にたなびく雲を見つつ偲はも
[仮名],つしまのねは,したぐもあらなふ,かむのねに,たなびくくもを,みつつしのはも
3517
[題詞]
[原文]思良久毛能 多要尓之伊毛乎 阿是西呂等 許己呂尓能里弖 許己婆可那之家
[訓読]白雲の絶えにし妹をあぜせろと心に乗りてここば愛しけ
[仮名],しらくもの,たえにしいもを,あぜせろと,こころにのりて,ここばかなしけ
3518
[題詞]
[原文]伊波能倍尓 伊可賀流久毛能 可努麻豆久 比等曽於多波布 伊射祢之賣刀良
[訓読]岩の上にいかかる雲のかのまづく人ぞおたはふいざ寝しめとら
[仮名],いはのへに,いかかるくもの,かのまづく,ひとぞおたはふ,いざねしめとら
3519
[題詞]
[原文]奈我波伴尓 己良例安波由久 安乎久毛能 伊弖来和伎母兒 安必見而由可武
[訓読]汝が母に嘖られ我は行く青雲の出で来我妹子相見て行かむ
[仮名],ながははに,こられあはゆく,あをくもの,いでこわぎもこ,あひみてゆかむ
3520
[題詞]
[原文]於毛可多能 和須礼牟之太波 於抱野呂尓 多奈婢久君母乎 見都追思努波牟
[訓読]面形の忘れむしだは大野ろにたなびく雲を見つつ偲はむ
[仮名],おもかたの,わすれむしだは,おほのろに,たなびくくもを,みつつしのはむ
3521
[題詞]
[原文]可良須等布 於保乎曽杼里能 麻左R尓毛 伎麻左奴伎美乎 許呂久等曽奈久
[訓読]烏とふ大をそ鳥のまさでにも来まさぬ君をころくとぞ鳴く
[仮名],からすとふ,おほをそとりの,まさでにも,きまさぬきみを,ころくとぞなく
3522
[題詞]
[原文]伎曽許曽波 兒呂等左宿之香 久毛能宇倍由 奈伎由久多豆乃 麻登保久於毛保由
[訓読]昨夜こそば子ろとさ寝しか雲の上ゆ鳴き行く鶴の間遠く思ほゆ
[仮名],きぞこそば,ころとさねしか,くものうへゆ,なきゆくたづの,まとほくおもほゆ
3523
[題詞]
[原文]佐可故要弖 阿倍乃田能毛尓 為流多豆乃 等毛思吉伎美波 安須左倍母我毛
[訓読]坂越えて安倍の田の面に居る鶴のともしき君は明日さへもがも
[仮名],さかこえて,あへのたのもに,ゐるたづの,ともしききみは,あすさへもがも
3524
[題詞]
[原文]麻乎其母能 布能<末>知可久弖 安波奈敝波 於吉都麻可母能 奈氣伎曽安我須流
[訓読]まを薦の節の間近くて逢はなへば沖つま鴨の嘆きぞ我がする
[仮名],まをごもの,ふのまちかくて,あはなへば,おきつまかもの,なげきぞあがする
3525
[題詞]
[原文]水久君野尓 可母能波抱能須 兒呂我宇倍尓 許等乎呂波敝而 伊麻太宿奈布母
[訓読]水久君野に鴨の這ほのす子ろが上に言緒ろ延へていまだ寝なふも
[仮名],みくくのに,かものはほのす,ころがうへに,ことをろはへて,いまだねなふも
3526
[題詞]
[原文]奴麻布多都 可欲波等里我栖 安我己許呂 布多由久奈母等 奈与母波里曽祢
[訓読]沼二つ通は鳥が巣我が心二行くなもとなよ思はりそね
[仮名],ぬまふたつ,かよはとりがす,あがこころ,ふたゆくなもと,なよもはりそね
3527
[題詞]
[原文]於吉尓須毛 乎加母乃毛己呂 也左可杼利 伊伎豆久伊毛乎 於伎弖伎努可母
[訓読]沖に住も小鴨のもころ八尺鳥息づく妹を置きて来のかも
[仮名],おきにすも,をかものもころ,やさかどり,いきづくいもを,おきてきのかも
3528
[題詞]
[原文]水都等利乃 多々武与曽比尓 伊母能良尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比可祢都母
[訓読]水鳥の立たむ装ひに妹のらに物言はず来にて思ひかねつも
[仮名],みづとりの,たたむよそひに,いものらに,ものいはずきにて,おもひかねつも
3529
[題詞]
[原文]等夜乃野尓 乎佐藝祢良波里 乎佐乎左毛 祢奈敝古由恵尓 波伴尓許呂波要
[訓読]等夜の野に兎ねらはりをさをさも寝なへ子ゆゑに母に嘖はえ
[仮名],とやののに,をさぎねらはり,をさをさも,ねなへこゆゑに,ははにころはえ
3530
[題詞]
[原文]左乎思鹿能 布須也久草無良 見要受等母 兒呂我可奈門欲 由可久之要思母
[訓読]さを鹿の伏すや草むら見えずとも子ろが金門よ行かくしえしも
[仮名],さをしかの,ふすやくさむら,みえずとも,ころがかなとよ,ゆかくしえしも
3531
[題詞]
[原文]伊母乎許曽 安比美尓許思可 麻欲婢吉能 与許夜麻敝呂能 思之奈須於母敝流
[訓読]妹をこそ相見に来しか眉引きの横山辺ろの獣なす思へる
[仮名],いもをこそ,あひみにこしか,まよびきの,よこやまへろの,ししなすおもへる
3532
[題詞]
[原文]波流能野尓 久佐波牟古麻能 久知夜麻受 安乎思努布良武 伊敝乃兒呂波母
[訓読]春の野に草食む駒の口やまず我を偲ふらむ家の子ろはも
[仮名],はるののに,くさはむこまの,くちやまず,あをしのふらむ,いへのころはも
3533
[題詞]
[原文]比登乃兒乃 可奈思家之太波 々麻渚杼里 安奈由牟古麻能 乎之家口母奈思
[訓読]人の子の愛しけしだは浜洲鳥足悩む駒の惜しけくもなし
[仮名],ひとのこの,かなしけしだは,はますどり,あなゆむこまの,をしけくもなし
3534
[題詞]
[原文]安可胡麻我 可度弖乎思都々 伊弖可天尓 世之乎見多弖思 伊敝能兒良波母
[訓読]赤駒が門出をしつつ出でかてにせしを見立てし家の子らはも
[仮名],あかごまが,かどでをしつつ,いでかてに,せしをみたてし,いへのこらはも
3535
[題詞]
[原文]於能我乎遠 於保尓奈於毛比曽 尓波尓多知 恵麻須我可良尓 古麻尓安布毛能乎
[訓読]己が命をおほにな思ひそ庭に立ち笑ますがからに駒に逢ふものを
[仮名],おのがをを,おほになおもひそ,にはにたち,ゑますがからに,こまにあふものを
3536
[題詞]
[原文]安加胡麻乎 宇知弖左乎妣吉 己許呂妣吉 伊可奈流勢奈可 和我理許武等伊布
[訓読]赤駒を打ちてさ緒引き心引きいかなる背なか我がり来むと言ふ
[仮名],あかごまを,うちてさをびき,こころひき,いかなるせなか,わがりこむといふ
3537
[題詞]
[原文]久敝胡之尓 武藝波武古宇馬能 波都々々尓 安比見之兒良之 安夜尓可奈思母
[訓読]くへ越しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛しも
[仮名],くへごしに,むぎはむこうまの,はつはつに,あひみしこらし,あやにかなしも
3537S
[題詞]或本歌曰
[原文]宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母
[訓読]馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも
[仮名],うませごし,むぎはむこまの,はつはつに,にひはだふれし,ころしかなしも
3538
[題詞]
[原文]比呂波之乎 宇馬古思我祢弖 己許呂能未 伊母我理夜里弖 和波己許尓思天
[訓読]広橋を馬越しがねて心のみ妹がり遣りて我はここにして
[仮名],ひろはしを,うまこしがねて,こころのみ,いもがりやりて,わはここにして
3538S
[題詞]或本歌發句曰
[原文]乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣
[訓読]小林に駒を馳ささげ
[仮名],をばやしに,こまをはささげ
3539
[題詞]
[原文]安受乃宇敝尓 古馬乎都奈伎弖 安夜抱可等 比等豆麻古呂乎 伊吉尓和我須流
[訓読]あずの上に駒を繋ぎて危ほかど人妻子ろを息に我がする
[仮名],あずのうへに,こまをつなぎて,あやほかど,ひとづまころを,いきにわがする
3540
[題詞]
[原文]左和多里能 手兒尓伊由伎安比 安可胡麻我 安我伎乎波夜未 許等登波受伎奴
[訓読]左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ
[仮名],さわたりの,てごにいゆきあひ,あかごまが,あがきをはやみ,こととはずきぬ
3541
[題詞]
[原文]安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母
[訓読]あずへから駒の行ごのす危はとも人妻子ろをまゆかせらふも
[仮名],あずへから,こまのゆごのす,あやはとも,ひとづまころを,まゆかせらふも
3542
[題詞]
[原文]<佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多
里可聞
[訓読]さざれ石に駒を馳させて心痛み我が思ふ妹が家のあたりかも
[仮名],さざれいしに,こまをはさせて,こころいたみ,あがもふいもが,いへのあたりか
も
3543
[題詞]
[原文]武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓
[訓読]むろがやの都留の堤の成りぬがに子ろは言へどもいまだ寝なくに
[仮名],むろがやの,つるのつつみの,なりぬがに,ころはいへども,いまだねなくに
3544
[題詞]
[原文]阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母
[訓読]あすか川下濁れるを知らずして背ななと二人さ寝て悔しも
[仮名],あすかがは,したにごれるを,しらずして,せななとふたり,さねてくやしも
3545
[題詞]
[原文]安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆>
[訓読]あすか川堰くと知りせばあまた夜も率寝て来ましを堰くと知りせば
[仮名],あすかがは,せくとしりせば,あまたよも,ゐねてこましを,せくとしりせば
3546
[題詞]
[原文]安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母
[訓読]青柳の張らろ川門に汝を待つと清水は汲まず立ち処平すも
[仮名],あをやぎの,はらろかはとに,なをまつと,せみどはくまず,たちどならすも
3547
[題詞]
[原文]阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天
[訓読]あぢの棲む須沙の入江の隠り沼のあな息づかし見ず久にして
[仮名],あぢのすむ,すさのいりえの,こもりぬの,あないきづかし,みずひさにして
3548
[題詞]
[原文]奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母
[訓読]鳴る瀬ろにこつの寄すなすいとのきて愛しけ背ろに人さへ寄すも
[仮名],なるせろに,こつのよすなす,いとのきて,かなしけせろに,ひとさへよすも
3549
[題詞]
[原文]多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟
[訓読]多由比潟潮満ちわたるいづゆかも愛しき背ろが我がり通はむ
[仮名],たゆひがた,しほみちわたる,いづゆかも,かなしきせろが,わがりかよはむ
3550
[題詞]
[原文]於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而
[訓読]おしていなと稲は搗かねど波の穂のいたぶらしもよ昨夜ひとり寝て
[仮名],おしていなと,いねはつかねど,なみのほの,いたぶらしもよ,きぞひとりねて
3551
[題詞]
[原文]阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖
[訓読]阿遅可麻の潟にさく波平瀬にも紐解くものか愛しけを置きて
[仮名],あぢかまの,かたにさくなみ,ひらせにも,ひもとくものか,かなしけをおきて
3552
[題詞]
[原文]麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須毛
[訓読]まつが浦にさわゑうら立ちま人言思ほすなもろ我が思ほのすも
[仮名],まつがうらに,さわゑうらだち,まひとごと,おもほすなもろ,わがもほのすも
3553
[題詞]
[原文]安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母
[訓読]あじかまの可家の港に入る潮のこてたずくもが入りて寝まくも
[仮名],あぢかまの,かけのみなとに,いるしほの,こてたずくもが,いりてねまくも
3554
[題詞]
[原文]伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母
[訓読]妹が寝る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ入りて寝まくも
[仮名],いもがぬる,とこのあたりに,いはぐくる,みづにもがもよ,いりてねまくも
3555
[題詞]
[原文]麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓
[訓読]麻久良我の許我の渡りの韓楫の音高しもな寝なへ子ゆゑに
[仮名],まくらがの,こがのわたりの,からかぢの,おとだかしもな,ねなへこゆゑに
3556
[題詞]
[原文]思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武
[訓読]潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ
[仮名],しほぶねの,おかればかなし,さねつれば,ひとごとしげし,なをどかもしむ
3557
[題詞]
[原文]奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓
[訓読]悩ましけ人妻かもよ漕ぐ舟の忘れはせなないや思ひ増すに
[仮名],なやましけ,ひとづまかもよ,こぐふねの,わすれはせなな,いやもひますに
3558
[題詞]
[原文]安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛
[訓読]逢はずして行かば惜しけむ麻久良我の許我漕ぐ船に君も逢はぬかも
[仮名],あはずして,ゆかばをしけむ,まくらがの,こがこぐふねに,きみもあはぬかも
3559
[題詞]
[原文]於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母
[訓読]大船を舳ゆも艫ゆも堅めてし許曽の里人あらはさめかも
[仮名],おほぶねを,へゆもともゆも,かためてし,こそのさとびと,あらはさめかも
3560
[題詞]
[原文]麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波
[訓読]ま金ふく丹生のま朱の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは
[仮名],まかねふく,にふのまそほの,いろにでて,いはなくのみぞ,あがこふらくは
3561
[題詞]
[原文]可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母
[訓読]金門田を荒垣ま斎み日が照れば雨を待とのす君をと待とも
[仮名],かなとだを,あらがきまゆみ,ひがとれば,あめをまとのす,きみをとまとも
3562
[題詞]
[原文]安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖
[訓読]荒礒やに生ふる玉藻のうち靡きひとりや寝らむ我を待ちかねて
[仮名],ありそやに,おふるたまもの,うちなびき,ひとりやぬらむ,あをまちかねて
3563
[題詞]
[原文]比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母
[訓読]比多潟の礒のわかめの立ち乱え我をか待つなも昨夜も今夜も
[仮名],ひたがたの,いそのわかめの,たちみだえ,わをかまつなも,きぞもこよひも
3564
[題詞]
[原文]古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟
[訓読]古須気ろの浦吹く風のあどすすか愛しけ子ろを思ひ過ごさむ
[仮名],こすげろの,うらふくかぜの,あどすすか,かなしけころを,おもひすごさむ
3565
[題詞]
[原文]可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母
[訓読]かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月片寄るも
[仮名],かのころと,ねずやなりなむ,はだすすき,うらののやまに,つくかたよるも
3566
[題詞]
[原文]和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖
[訓読]我妹子に我が恋ひ死なばそわへかも神に負ほせむ心知らずて
[仮名],わぎもこに,あがこひしなば,そわへかも,かみにおほせむ,こころしらずて
万葉集 (Manyoshu) | ||