University of Virginia Library

竹とその哀傷

草の莖

冬のさむさに
ほそき毛をもてつつまれし
草の莖をみよや
あをらみ莖はさみしげなれども
いちめんにうすき毛をもてつつまれし
草の莖をみよや。
雪もよひする空のかなたに
草の莖はもえいづる。

地面の底の病氣の顏

地面の底に顏があらはれ
さみしい病人の顏があらはれ。
地面の底のくらやみに
うらうら草の莖が萠えそめ
鼠の巣が萠えそめ
巣にこんがらがつてゐる
かずしれぬ髪の毛がふるへ出し
冬至のころの
さびしい病氣の地面から
ほそい青竹の根が生えそめ
生えそめ
それがじつにあはれふかくみえ
けぶれるごとくに視え
じつに じつに あはれふかげに視え。
地面の底のくらやみに
さみしい病人の顏があれはれ。

光る地面に竹が生え
青竹が生え
地下には竹の根が生え
根がしだいにほそらみ
根の先より纎毛が生え
かすかにけぶる纎毛が生え
かすかにふるへ。
かたき地面に竹が生え
地上にするどく竹が生え
まつしぐらに竹が生え
凍れる節節りんりんと
青空の下に竹が生え
竹 竹 竹が生え。

ますぐなるもの地面に生え
するどき青きもの地面に生え
凍れる冬をつらぬきて
そのみどり葉光る朝の空路に
なみだたれ
なみだをたれ
いまはや懺悔をはれる肩の上より
けぶれる竹の根はひろごり
するどき青きもの地面に生え。
みよすべての罪はしるされたり
されどすべては我にあらざりき
まことにわれに現はれしは
かげなき青き炎の幻影のみ
雪の上に消えさる哀傷の幽靈のみ
ああかかる日のせつなる懺悔をも何かせむ
すべては青きほのほの幻影のみ。

醋えたる菊

その菊は醋え
その菊は痛みしたたる
あはれあれ霜つきはじめ
わがぷらちなの手はしなへ
するどく指をとがらして
菊をつまむとねがふより
その菊をばつむことなかれとて
かがやく天の一方に
菊は痛み
饐えたる菊はいたみたる。

林あり
沼あり
蒼天あり
ひとの手にはおもみを感じ
しづかに純金の龜ねむる
この光る
寂しき自然のいたみにたへ
ひとの心靈にまさぐりしづむ
龜は蒼天のふかみにしづむ。

つみとがのしるし天にあらはれ
ふりつむ雪のうへにあらはれ
木木の梢にかがやきいで
ま冬をこえて光るがに
おかせる罪のしるしよもに現れぬ。
みよや眠れる
くらき土壤にいきものは
懺悔の家をぞ建てそめし。

あふげば高き松が枝に琴かけ鳴らす
おゆびに紅をさしぐみて
ふくめる琴をかきならす
ああ かき鳴らすひとづま琴の音にもつれぶき
いみじき笛は天にあり。
けふの霜夜の空に冴え冴え
松の梢を光らして
かなしむものの一念に
懺悔の姿をあらはしぬ。
いみじき笛は天にあり。

天上縊死

遠夜に光る松の葉に
懺悔の涙したたりて
遠夜の空にしも白ろき
天上の松に首をかけ。
天上の松を戀ふるより
祈れるさまに吊されぬ。

いと高き梢にありて
ちひさなる卵ら光り
[_]
[1]あふげぼ
小鳥の巣は光り

いまはや罪びとの祈るときなる。
[_]
[1]Gendai Nihon Bungaku Taikei (Tokyo: Chikuma Shobo, 1970, vol. 47; hereafter as GNBT) reads あふげば.