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01 (579)
181Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Kokukoku  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆっくり鉄格子のこま一つ一つを拭いたりして動いている。
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182Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Komura tansai  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  お柳はひどく酔払った。そして、
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183Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Koorigura no nikai  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆 塵埃 ( ほこり ) を立てた。まして、今は春だし、練兵場の方角から毎日風が吹くから、空気の中の埃といったらない。それが、硝子につく。硝子は、外側から一面薄茶色の粉を吹きつけたように曇っていた。何年前に、この大露台の硝子は拭かれたぎりなのだろう。
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184Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Koshijima no mofu  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:   縮毛 ( ちぢれげ ) のいほ[1]は、女中をやめた。
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185Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Asu no kotoba: Ruporutaju no mondai  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  日本文学が近い将来に、どのような新たな要素をとりいれて進展してゆくだろうかという問題は、決して単純に答えられないことであると思う。日本の社会がこの先どうなって行くだろうかと訊かれて、簡単に答え得る人は、寧ろ今日の現実の裡で十分緻密な生活感情をもって複雑な日々の経験をとり入れている人であるとは云い難い実情である。現実は益々複雑な面を露出している。文学の歩みがその社会的相関の相貌をつよく反映して、種々な交錯の中に推移してゆかなければならないことも亦当然であろう。
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186Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Koten kara no atarashii izumi  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  世界が到るところで大きい動きと変化とをみせていて、この状態はおそらく五年や六年でおさまるものとは考えられない。
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187Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  "Koyomi" to sono sakusha  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  壺井栄さんの「大根の葉」という小説が書きあげられたのは昭和十三年の九月で、それが『文芸』に発表されたのは十四年の早春のことであったと思う。それから後に書いた「暦」と他の短篇とを合わせて『暦』という短篇集が出たのは去年の三月である。
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188Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Koiu geppyo ga hosii  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  毎月いくつかのプロレタリア小説、ブルジョア小説が、いろいろな雑誌に発表される。
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189Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Kubokawa Ineko no koto  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。私はその頃本郷の下宿にいて、そこで会ったように思う。最初の印象は、今日もう思い出せなくなってしまっている。そのときも彼女らしく、どこといって変に目立つようなところを外見にもっていなかったのであったろう。
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190Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Kyodo kosaku  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  裏のくぬぎ林のあっちをゴーゴーと二番の上りが通った。
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191Author:  Miyazawa, KenjiAdd
 Title:  Kaze no mata saburo  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  谷川の岸に小さな学校がありました。
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192Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Kagamimochi  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  正面のドアを押して入ると、すぐのところで 三和土 ( たたき ) の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうではなく、そういう 風体 ( ふうてい ) でそのへんにハタキをかけたり、椅子を動かしたり動きまわっているのは、制服の上衣をぬいだ巡査であった。
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193Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Kokoro no kawa  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  庭には、檜葉だの、あすなろう、青木、槇、常緑樹ばかり繁茂しているので、初夏の烈しい日光がさすと、天井の低い八畳の部屋は、緑色の反射でどちらを向いても青藻の底に沈んだようになった。
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194Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Ochita mama no neji  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  十月号の『文芸』に発表されている深田久彌氏の小説「強者連盟」には、様々の人物が輪舞的に登場しているが、なかに、高等学校の生徒で梅雄と云う青年が描かれている。
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195Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Ogai, Akutagawa, Kikuchi no rekishi shosetsu  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  森鴎外の「歴史もの」は、大正元年十月の中央公論に「興津彌五右衛門の遺書」が載せられたのが第一作であった。そして、斎藤茂吉氏の解説によると、この一作のかかれた動機は、その年九月十三日明治大帝の御大葬にあたって乃木大将夫妻の殉死があった。夜半青山の御大葬式場から退出しての帰途、その噂をきいて「予半信半疑す」と日記にかかれているそうである。つづいて、鴎外は乃木夫妻の納棺式に臨み、十八日の葬式にも列った。同日の日記に「興津彌五右衛門を艸して中央公論に寄す」とあって、乃木夫妻の死を知った十四日から三日ぐらいの間に、しかもその間には夫妻の納棺式や葬儀に列しつつ、この作品は書かれたのであった。
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196Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Omokage  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  睡りからさめるというより、悲しさで目がさまされたという風に朝子はぽっかり枕の上で目をあけた。
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197Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Ongaku no minzokusei to fushi  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  この春新響の演奏したチャイコフスキーの「悲愴交響楽」は、今も心のなかに或る感銘をのこしている。一度ならず聴いているこの交響楽から、あの晩、特別新鮮に深い感動を与えられたのはおそらく私一人ではなかったろうと思う。
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198Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  Onozu kara hikuki ni: konnichi no shinbun shosetsu to bungaku  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  文学的作品としての面から新聞小説を見れば、もとからそれに伴っていた種々の制約というものは大して変化していまいと思われる。読者が、新聞小説に求めている面白さの本質の問題から云わば制約の第一歩がはじまっていることも、時代風俗的なディテールへの作者の適応性が要求されていることも変りはないであろう。
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199Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  "Otona no bungaku"ron no genjitsusei  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  近頃、一部の作家たちの間に、日本の作者はもっと「大人の文学」をつくるようにならなければならない、という提唱がなされている。この頃一般人の興味関心は文学から離れつつある。その理由を、今日の作家は文学青年の趣向に追随して、その作品の中で人間はいかに生きてゆくべきかという生きかたを示さず、小説の書きかたに工夫をこらしているからであると見る評論家(小林秀雄氏)作家(林房雄氏)たちによって、「大人の文学」論がいわれているのである。
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200Author:  Miyamoto, YurikoAdd
 Title:  "Kono kokoro no hokori": Paru Bakku cho  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によって配合され、性格づけられたものである現実も知っている。私たちは、植物のようにひとりでにその土壤から生えているのではなくて、力よわくとも一人の人間の女であるから、自分の生命の価値について冷淡ではあり得ない。よりよく生きたいという切望は、特別女の心の底深く常に湧き立っている熱い泉である。よしやその泉の上に岩のおもしがおかれて人目からその清冽な姿がかくされていようとも、また、小ざかしく虚無を真似て自分からその泉の小さい 燦 ( かがや ) きに目をそむけていようとも、やっぱりよく生きたい、という願望の実在は消されない。
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