| 1 | Author: | Yosano, Akiko | Add | | Title: | Gekido no naka o yuku | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 人生は静態のものでなくて動態のものであり、それの固定を病的状態とし、それの流動を正統状態として、常に動揺変化の中にあるものであるということは説明の必要もないことですが、戦後の世界は戦前においてさまで[1]優勢でなかった思想が
勃興
(
ぼっこう
)
し初めたために、経済的、政治的、社会的のいずれの方面においても、これまでになかった急激な動揺変化を生じて、それがために人間の思想と実際生活とは紛糾に紛糾を重ねようとしています。即ち今日の新しい合言葉となっている人道主義とか、民主主義とか、国際平和主義とかいうものは、戦前において学者、詩人、社会改良論者、宗教家等の空想として、大多数の人類から軽視されていたものですが、今は
普魯西
(
プロシヤ
)
のカイゼル父子とそれを
繞
(
めぐ
)
っていた軍閥者流とが代表として固執していた旧式な
浪曼
(
ローマン
)
主義に根ざす軍国主義や専制主義がこの度の戦争の末期において
頓挫
(
とんざ
)
したために、英仏米諸国の一流の学者、政治家、芸術家に由って支持される新しい浪曼主義に根ざした人道主義や民主主義の思想が天下の権威であるが如き外観を呈するに到りました。そうして、今や世界は、この新しい権威である思想に向って
俄
(
にわ
)
かに自己の生活を適応させるために照準の大転換を行おうとして
焦燥
(
あせ
)
る者と、この思想に反抗して時代遅れの専制的、階級的、官僚的、資本家的の旧思想を維持するために、あらゆる非合理と陰険と暴力とを手段として固執する者と、この急劇な世界の変化に対し、こういう場合に処すべき修養と訓練とをそれまで[2]から欠いていたために、どうすれば好いか、全く策の
出
(
い
)
ずる所を知らないで
徒
(
いたず
)
らに
狼狽
(
ろうばい
)
して右往左往する者と、大体においてこの三種に分つべき人々に由って
未曾有
(
みぞう
)
の混乱状態を引起しています。 | | Similar Items: | Find |
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