| 1 | Author: | Kobayashi, Issa | Requires cookie* | | Title: | Ora ga Haru | | | Published: | 1998 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 昔たんごの國普甲寺といふ所に、深く淨土を願ふ上人ありけり。としの始は世間祝ひ
事してざゞめけば、我もせん迚、大卅日の夜、ひとりつかふ小法師に手紙したゝめ渡
して、翌の曉にしか%\せよと、きといひをしへて、本堂へとまりにやりぬ。小法師
は元日の旦、いまだ隅々は小闇きに、初鳥の聲とおなじくがばと起て、教へのごとく
表門を丁々と敲けば、内よりいづこよりと問ふ時、西方彌陀佛より年始の使僧に候と
答ふるよりはやく、上人裸足にておどり出て、門の扉を左右へさつと開て、小法師を
上坐に稱して、きのふの手紙をとりて、うや/\しくいたゞきて讀でいはく、其世界
は衆苦充滿に候間はやく吾國に來たるべし、聖衆出むかひしてまち入候とよみ終りて、
おゝ/\と泣れけるとかや。此上人みづから工み拵へたる悲しみに、みづからなげき
つゝ、初春の淨衣を絞りて、したゝる泪を見て祝ふとは、物に狂ふさまながら、俗人
に對して無情を演るを禮とすると聞からに、佛門においては、いはひの骨張なるべけ
れ。それとはいさゝか替りて、おのれらは俗塵に埋れて世渡る境界ながら、鶴龜にた
ぐへての祝盡しも、厄拂ひの口上めきてそら%\しく思ふからに、から風の吹けばと
ぶ屑家は、くづ屋のあるべきやうに、門松立てず、煤はかず、雪の山路の曲り形りに、
ことしの春もあなた任せになんむかへける | | Similar Items: | Find |
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