| 181 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Akarui koba | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | ソヴェト同盟の南にロストフという都会がある。ドン川という大きい河に沿って、花の沢山咲いた綺麗な街が、新しい労働者住宅やクラブの間にとおっている。私は七月のある朝、ドイツからソヴェト同盟へやって来たドイツの労働者見学団といっしょにホテルを出て、ドン国営煙草工場見学に出かけた。ロストフはウクライナ共和国の主都で、附近にはソヴェト第一の大国営農場「ギガント」があった。丁度素晴らしい「トラクター」や「コンバイン」をつかって麦の収穫を終ったばかりのところである。ドイツからの労働者見学団の若い男女たちは、その収穫の壮大な仕事ぶりを見てきたばかりなので、片言のロシア語やあやしげな英語で(私にドイツ語がわからないから)さかんにその見事な様子について私に話してきかせる。私がロストフへきていたのもその「ギガント」を見るためなのである。 | | Similar Items: | Find |
183 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Kodaiji | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 三等の切符を買って、平土間の最前列に座った。一番終りの日で、彼等の後は
棧敷
(
さじき
)
の隅までぎっしりの人であった。一間と離れぬところに、舞台が高く見えた。 | | Similar Items: | Find |
187 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Kokukoku | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆっくり鉄格子のこま一つ一つを拭いたりして動いている。 | | Similar Items: | Find |
189 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Koorigura no nikai | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆
塵埃
(
ほこり
)
を立てた。まして、今は春だし、練兵場の方角から毎日風が吹くから、空気の中の埃といったらない。それが、硝子につく。硝子は、外側から一面薄茶色の粉を吹きつけたように曇っていた。何年前に、この大露台の硝子は拭かれたぎりなのだろう。 | | Similar Items: | Find |
191 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Asu no kotoba: Ruporutaju no mondai | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 日本文学が近い将来に、どのような新たな要素をとりいれて進展してゆくだろうかという問題は、決して単純に答えられないことであると思う。日本の社会がこの先どうなって行くだろうかと訊かれて、簡単に答え得る人は、寧ろ今日の現実の裡で十分緻密な生活感情をもって複雑な日々の経験をとり入れている人であるとは云い難い実情である。現実は益々複雑な面を露出している。文学の歩みがその社会的相関の相貌をつよく反映して、種々な交錯の中に推移してゆかなければならないことも亦当然であろう。 | | Similar Items: | Find |
195 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Kubokawa Ineko no koto | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。私はその頃本郷の下宿にいて、そこで会ったように思う。最初の印象は、今日もう思い出せなくなってしまっている。そのときも彼女らしく、どこといって変に目立つようなところを外見にもっていなかったのであったろう。 | | Similar Items: | Find |
198 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Kagamimochi | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 正面のドアを押して入ると、すぐのところで
三和土
(
たたき
)
の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうではなく、そういう
風体
(
ふうてい
)
でそのへんにハタキをかけたり、椅子を動かしたり動きまわっているのは、制服の上衣をぬいだ巡査であった。 | | Similar Items: | Find |
199 | Author: | Miyamoto, Yuriko | Add | | Title: | Kokoro no kawa | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 庭には、檜葉だの、あすなろう、青木、槇、常緑樹ばかり繁茂しているので、初夏の烈しい日光がさすと、天井の低い八畳の部屋は、緑色の反射でどちらを向いても青藻の底に沈んだようになった。 | | Similar Items: | Find |
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