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collapse2003
collapse01
01 (1)
1Author:  Akutagawa, RyunosukeRequires cookie*
 Title:  Matsue inshoki  
 Published:  2003 
 Subjects:  Japanese Text Initiative 
 Description:  松江へ来て、まず自分の心をひいたものは、この 市 ( まち ) を 縦横 ( じゅうおう ) に貫いている川の水とその川の上に 架 ( か ) けられた多くの木造の橋とであった。河流の多い都市はひとり松江のみではない。しかし、そういう都市の水は、自分の知っている限りでたいていはそこに架けられた 橋梁 ( きょうりょう ) によって少からず、その美しさを 殺 ( そ ) がれていた。なぜといえば、その都市の人々は必ずその川の流れに第三流の 櫛形 ( くしがた ) 鉄橋を架けてしかもその醜い鉄橋を彼らの得意なものの一つに数えていたからである。自分はこの 間 ( かん ) にあって愛すべき木造の橋梁を松江のあらゆる川の上に見いだしえたことをうれしく思う。ことにその橋の二、三が古日本の版画家によって、しばしばその構図に利用せられた青銅の 擬宝珠 ( ぎぼうし ) をもって主要なる装飾としていた一事は自分をしていよいよ深くこれらの橋梁を愛せしめた。松江へ着いた日の薄暮雨にぬれて光る大橋の擬宝珠を、灰色を帯びた緑の水の上に望みえたなつかしさは事新しくここに書きたてるまでもない。これらの 木橋 ( もくきょう ) を有する松江に比して、朱塗りの神橋に隣るべく、醜悪なる鉄のつり橋を架けた日光町民の愚は、誠にわらうべきものがある。
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