| 1 | Author: | Izumi, Kyoka | Requires cookie* | | Title: | Onryo shakuyo | | | Published: | 2003 | | | Subjects: | Japanese Text Initiative | | | Description: | 婦人は、座の
傍
(
かたわら
)
に人気のまるでない時、ひとりでは
按摩
(
あんま
)
を取らないが
可
(
い
)
いと、
昔気質
(
むかしかたぎ
)
の誰でもそう云う。
上
(
かみ
)
はそうまでもない。あの
下
(
しも
)
の事を言うのである。
閨
(
ねや
)
では別段に注意を要するだろう。以前は影絵、うつし絵などでは、
巫山戯
(
ふざけ
)
たその光景を見せたそうで。――
御新姐
(
ごしんぞ
)
さん、……奥さま。……さ、お横に、とこれから腰を
揉
(
も
)
むのだが、横にもすれば、
俯向
(
うつむけ
)
にもする、一つくるりと返して、ふわりと柔くまた横にもしよう。水々しい
魚
(
うお
)
は、真綿、羽二重の
俎
(
まないた
)
に寝て、術者はまな
箸
(
ばし
)
を持たない料理人である。
衣
(
きぬ
)
を
透
(
とお
)
して、肉を揉み、筋を
萎
(
なや
)
すのであるから
恍惚
(
うっとり
)
と身うちが溶ける。ついたしなみも粗末になって、下じめも解けかかれば、帯も緩くなる。きちんとしていてさえざっとこの趣。……
遊山
(
ゆさん
)
旅籠
(
はたご
)
、温泉宿などで
寝衣
(
ねまき
)
、浴衣に、
扱帯
(
しごき
)
、
伊達巻
(
だてまき
)
一つの時の様子は、ほぼ……お互に、しなくっても
可
(
よ
)
いが想像が出来る。
膚
(
はだ
)
を左右に揉む拍子に、いわゆる
青練
(
あおねり
)
も
溢
(
こぼ
)
れようし、
緋縮緬
(
ひぢりめん
)
も
友染
(
ゆうぜん
)
も敷いて落ちよう。按摩をされる
方
(
かた
)
は、
対手
(
あいて
)
を
盲
(
めくら
)
にしている。そこに姿の油断がある。足くびの時なぞは、一応は職業行儀に心得て、
太脛
(
ふくらはぎ
)
から曲げて引上げるのに、すんなりと
衣服
(
きもの
)
の
褄
(
つま
)
を巻いて包むが、療治をするうちには双方の気のたるみから、
踵
(
かかと
)
を
摺下
(
ずりさが
)
って褄が波のようにはらりと落ちると、包ましい膝のあたりから、白い踵が、空にふらふらとなり、しなしなとして、按摩の手の
裡
(
うち
)
に糸の乱るるがごとく
縺
(
もつ
)
れて、
艶
(
えん
)
に
媚
(
なまめ
)
かしい
上掻
(
うわがい
)
、
下掻
(
したがい
)
、ただ
卍巴
(
まんじともえ
)
に降る雪の中を
倒
(
さかし
)
に
歩行
(
ある
)
く風情になる。バッタリ
真暗
(
まっくら
)
になって、……影絵は消えたものだそうである。 | | Similar Items: | Find |
|